ナインストーリーズ

自分のアパートから離れてホテルの部屋の中、僕の荷物は少ない。本もパソコンもクッションもない。落ち着かないのはここが僕の居場所じゃないからか。実習はぬるく、疲れてもいない。ただ焦りだけが募り、恵まれた環境で心だけがもやもやと晴れない。今日は最高気温を記録し、風はむわっと湿り最高にぬるい夕方だ。
久しぶりに煙草を買って吸ってみてもぬるい煙が肺まで届かない。本屋に行って面白そうなミステリーを見つけても文庫の厚さに買う気が失せる。何も考えずに読める本を探してサリンジャーでも読んでみるかとレジへ進んだ。帰りにすき家に寄ると注文してLINEを読み返信を書く前に並盛卵セットが届く。むしゃむしゃと生姜を歯に噛ませながら頭では教養について考えていた。教養なんて高めたところで自己顕示欲や性欲がある限りどこにもたどり着けはしない。気づくと胃に全て収まっていて食事の余韻などなく450円を払って帰ってきた。fastな快感を求めてふらふらと彷徨う僕が落ち着くことはなかなかに難しい。サリンジャーは余計なことを、このもやもやを、僕を、忘れさせてくれるだろうか。