初めて女の子の家にいって二人きりになって、これから始まる愛の告白に鼓動がうるさくて冷静でいられない。そんな瞬間から、7年が過ぎた。自分が人からどう見られているか、自分はなんのために生きているのか、愛とは何か、そんなことばかり考えていた青年期が終わる。最近の生活は単調でただひたすらに、目の前のことをこなす日々だ。生活が小学生のころから単調だったのは変わらないけれど、あの頃に見ていた色合いは徐々に薄れていっている。心が生き生きとしていたあの頃は、現実の世界に対する美しいイデアをどこかに感じて、まだ見ぬ未来に夢想することができていた。今の生活に不満があるわけでは全くなくて、妻を愛しているし、娘はかわいくてたまらない。ただ、単に毎日の労働で心が干からびている。人々の数えきれない不幸や死に暴露され情緒が摩耗し、自分の感情はもう頼れず、知識を頼りになんとか人間らしく振舞えている。そうはいっても今の仕事は嫌いじゃないし、お金もたくさんもらえるし、他に興味があることもないし、今後もずっと続けるのだと思う。家族を守る父になるとはそういうことだ。